2025年7月5日(土)、アバンセホールにて佐賀いのちを大切にする会主催の「第31回いのちの講演会」が開催されました。佐賀県CSO推進機構は、CSO経営支援事業の一環として、講演会のオンライン配信を担当いたしました。
当日は会場が満席となり、急遽ホワイエ(ロビー)にビューイングスペースを設けるほどの盛況ぶりでした。オンラインでも50名以上の方が視聴され、会場の熱気と感動が多くの人々に共有されました。


講演会のはじまり
講演会は、佐賀いのちを大切にする会が発足31年目を迎えたことの報告から始まりました。40年前にマザーテレサの来日を機に始まった生命尊重の活動が、佐賀の地で長きにわたり続けられてきたことが紹介されました。
来賓として、山口祥義佐賀県知事からのメッセージが紹介されたほか、岩田かずちか衆議院議員が登壇。岩田議員は、会の活動への敬意を表するとともに、近年承認された経口中絶薬が社会に与える影響への懸念を表明し、命を大切にする社会のあり方について問題を提起しました。


講師・宮津航一氏
「“こうのとりのゆりかご”から始まる第2の人生」
今回の講師は、「こうのとりのゆりかご」に開設初日に預けられた第一号当事者である宮津航一氏。現在、熊本県立大学の4年生でありながら、子どもたちのための活動に精力的に取り組んでいます。
「こうのとりのゆりかご」の真実
宮津氏はまず、「こうのとりのゆりかご」が単なる「赤ちゃんポスト」ではないことを力強く語りました。正式名称で呼んでほしいという訴えの背景には、その仕組みへの深い理解がありました。ゆりかごは、匿名での預け入れが目的ではなく、まず「相談」を第一とする駆け込み寺であること。そして、どうしても相談できない、たどり着けない親子のための「最後の砦」であることを強調しました。
宮津氏が3歳で預けられた時、鮮明に残っている記憶は「扉の絵」だけ。足元には、服と靴がビニール袋に入れられて置かれていたといいます。このエピソードは、ゆりかごに託される命の背景にある、計り知れない物語を参加者に想像させました。
「絆で結ばれた家族」の中での成長
ゆりかごに預けられた後、宮津氏は5人の男の子がいる里親家庭に引き取られます。血の繋がりはなくとも「絆で結ばれた家族になろう」という方針のもと、愛情深く育てられました。毎年、お父さんが作ってくれる不格好でも愛情のこもった手作りケーキの話は、会場を温かい雰囲気で包みました。
一方で、自分の生い立ちと向き合う苦労もありました。小学校の授業で生まれた時の写真がなく兄の写真を借りたこと、行政によって決められた誕生日が後に本当の誕生日と2日違いだったと判明したことなど、アイデンティティを形成していく上での葛藤も率直に語られました。
圧巻だったのは、家族の絆を象徴するエピソードです。友人をかばったことで理不尽な抗議を受けた際、電話口の相手から「航一くんは親がおらんけんそういうことをするんでしょ」と言われた母が、「うちの子は、そんな子じゃありません!」と涙ながらに電話を切ってくれた姿。父が常々語っていた「家族とは、血が繋がっているということではなく、最後まで味方でいること」という言葉を母が体現してくれたこの出来事は、宮津氏の人生の大きな支えとなっています。
支援される側から、支援する側へ
宮津氏は、自身の経験から「どんな境遇の子も幸せになってほしい」との思いを抱き、高校3年生で「ふるさと元気子ども食堂」を、大学進学後には「一般社団法人子ども大学くまもと」を設立しました。
子ども食堂は、食事を提供するだけでなく「お腹を満たし心を満たす場所」として、子どもたちの心の拠り所となることを目指しています。また、「子ども大学くまもと」では、ゆりかご開設に尽力した元看護部長の田尻由貴子氏と共に、「いのち学」「ふるさと学」「生き方学」を三つの柱に、学校教育の枠を超えた学びの場を創出しています。講演では、同大学の事務局長である舩橋祐麻氏も登壇し、親子で参加することの意義や活動の詳細を伝えました。
当事者としての思いと今後の展望
宮津氏は自分の生い立ちを公表した理由として、ゆりかごへの感謝の思いと、他のゆりかごに預けられた子どもたちへのメッセージを伝えたいという思いがあったと語りました。「ゆりかごがあったおかげで命が救われ、今こうやって生活をさせてもらっていろんな機会をいただいています。本当にゆりかごのおかげだと、その感謝の思いをいろんな方々に伝えたい」と述べました。
また、全国各地に散らばっているゆりかごに預けられた子どもたちに対して「私がこうやって表から発信をしていくことで、どこかでも見てもらって、同じような境遇のお兄ちゃんがいると、私一人だけじゃないんだと、そして私の思いや経験が、その子たちの励みになればいいな」という思いで公表を決意したと説明しました。
宮津氏は「ゆりかごがない社会が理想」としながらも、現状では命を救うために必要な仕組みであることを強調し、社会全体がこの問題に関心を持つことの重要性を訴えました。「ゆりかごは母子の命を救うんです。子どもの命はもちろん救えます。でもそれだけじゃなくて、親も守るんです」と説明し、「1人目の使命としていろんなところに行けばチクチクすることもあります。 逆に、温かい心にさせていただくこともあります。 そういう中でも信念を貫いて、私の後に続いて歩く他のゆりかごの当事者のご家族や子どもたち、また私の背中を追ってくれる方々のために、その方々が楽に進めるようなそういう活動を私はしていかないといけない」と力強く語りました。
質疑応答と閉会
講演後の質疑応答では、小学校教員から「地域で子どもたちを支えるために何ができるか」という質問が出ました。宮津氏は「まずは声をかけ、お互いに名前で呼べる関係を作ることが大事。子どもたちは助けを求めたくても求められない状況にある。その関係性が地域には必要」と答え、参加者一人ひとりができることへのヒントを示しました。
最後に、佐賀いのちを大切にする会千住相談役から「お腹の赤ちゃんとお母さんを温かく迎える佐賀のまちづくり」を求める要望書が読み上げられ、林田紀子代表が閉会の挨拶を行いました。「ゆりかごの是か非かではなく、実際に救われた命があり、そこから新しい人生が始まっている。その事実を社会全体で受け止め、支えていくことが重要」と締めくくり、大きな拍手の中で講演会は幕を閉じました。
オンライン配信による支援
佐賀県CSO推進機構では、コロナ禍の2021年から継続して佐賀いのちを大切にする会のオンライン配信を支援しています。今回も、会場に来られない方々へこの重要なメッセージを届けるため、ライブ配信を実施しました。満員の会場、そしてロビーのビューイングスペースから伝わる熱気を、オンラインを通じて少しでも多くの皆様と共有できたことを大変嬉しく思います。
佐賀県CSO推進機構は、今後もオンライン配信をはじめとする様々な形で、佐賀県内で活動するCSOの皆様の活動を力強く支援してまいります。


お問い合わせ先
特定非営利活動法人佐賀県CSO推進機構
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