2026年2月3日(火)、佐賀市市民活動プラザ事業部では、今年度最後となる人材育成・社会課題別講座「遠いアフリカのコンゴは、佐賀のものづくりとつながっている。~市民活動でひもとく、私たちの地域と世界~」を開催しました。
本講座は、一見すると無関係に思える「遠いアフリカの紛争」と「佐賀の機械金属製造業」が、実は私たちの手元にあるスマートフォンや家電製品を通じて密接につながっているという事実を紐解く企画です。


社会課題別講座|今を知る
遠いアフリカのコンゴは、佐賀のものづくりとつながっている。~市民活動でひもとく、私たちの地域と世界~
- 日時:2026年2月3日(火)14:00~16:30
- 場所:佐賀市市民活動プラザ 4階 会議室401・402/オンラインZoom
- 講師:鬼丸 昌也 氏
- 認定NPO法人テラ・ルネッサンス/創設者・理事
- 登壇者:
- 古賀 忠輔 氏(聖徳ゼロテック株式会社/代表取締役)
- 野口 慎平 氏(株式会社太平プレテック/常務取締役)
第1部には、認定NPO法人テラ・ルネッサンス創設者・理事の鬼丸昌也氏を講師にお迎えし、第2部では佐賀市内のものづくり企業2社をお招きしてトークセッションを行いました。
会場・オンライン合わせて多くの方にご参加いただき、深い学びと気づきを得る時間となりました。
本記事では、当日の講座の様子をダイジェストでお届けします。
第1部|基調講演
紛争は「過去」ではなく「現在」と「未来」の問題
第1部の基調講演で鬼丸氏は、2001年のテラ・ルネッサンス設立の原点となったカンボジアでの体験から語り始めました。当時大学生だった鬼丸氏が目にしたのは、内戦終了後もなお、大地に無数に埋められた地雷でした。

「カンボジア一国に埋まっている地雷をすべて取り除くには、今のペースだと約600年かかると言われています」
鬼丸氏は、紛争が終わった後も残り続ける「負の遺産」の深刻さを強調しました。
特に印象的だったのは、地雷で手足を失った大人の男性の話です。彼らは単に身体の一部を失っただけでなく、「働けなくなること」で家族を養う術を失い、「自分は誰の役にも立てない」という尊厳(プライド)までも奪われていました。
「紛争がもたらす課題は、過去のものではありません。今そこにある問題であり、そして被害者の心や体に傷を残し続けるという意味で、未来へと続く問題なのです」
また、鬼丸氏はアフリカ・ウガンダで出会った「元子ども兵」たちの悲惨な実態も紹介しました。誘拐され、麻薬や暴力で洗脳され、兵士として戦わされる子どもたち。中には、脱走を防ぐために「自分の育った村を襲わせる」という残虐な手法もとられます。帰る場所を失い、心に深いトラウマを負った彼らは、紛争が終わっても社会復帰が極めて困難になります。
「子どもたちが『消費財』のように扱われ、交換可能な道具として使い捨てられている」。この現実は、参加者の心に重く響きました。


遠いアフリカの悲劇と、私の手のひらのスマートフォン
続いて話題は、今回のテーマであるコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)へと移りました。コンゴ東部では長年にわたり激しい紛争が続いており、多くの女性や子どもが犠牲になっています。その背景にあるのが、「資源の呪い」と呼ばれる問題です。
コンゴは、スズ、タンタル、タングステン、金(3TG)といった鉱物資源が非常に豊かな国です。しかし、これらはスマートフォンやパソコン、ゲーム機などの電子機器に不可欠な「レアメタル」を含んでおり、その利権を巡って武装勢力が争いを続けているのです。

「実は、広島に投下された原爆の原料となったウランも、その大半はコンゴ産でした。80年前から、コンゴの資源は世界の争いとつながっていたのです」
鬼丸氏は、コンゴで性暴力被害者の治療にあたるノーベル平和賞受賞者、デニ・ムクウェゲ医師の言葉を引き合いに出し、私たちに問いかけました。
「私たちが便利さを享受しているこのスマートフォンや家電製品。その中にある小さな部品が、遠い国の紛争の資金源となり、誰かの涙を生んでいるかもしれない」
現地で支援活動を行う鬼丸氏自身も、かつてこの事実に直面した際、「支援をしている自分が、実は紛争の原因となる製品を使い、加担しているのではないか」という強烈な矛盾と無力感に襲われたといいます。


「微力だが、無力ではない」消費者の行動が世界を変え
しかし、鬼丸氏は「そこで思考停止してはいけない」と力を込めました。

「私たちは微力ですが、決して無力ではありません。なぜなら、私たちは『買う側』にいるからです」
鬼丸氏は、消費者の行動が企業を変えた実例として、ある一人の主婦のエピソードを紹介しました。福島県に住むその女性は、子ども兵の話を聞いて衝撃を受け、日本の携帯電話メーカー全社に手紙を書きました。「紛争に関わる鉱物を使わないでください」という切実なお願いです。
その手紙は、ある大手メーカーの担当者の心を動かし、「創業者の理念に立ち返り、世界中の人を幸せにする商品を作るために調査します」という返事を引き出しました。一人の声が、大企業の行動を変えるきっかけになったのです。

また、有楽製菓の「ブラックサンダー」が、児童労働のないカカオへの切り替えを実現した事例も紹介されました。当初はコスト増が懸念されましたが、理念に基づいたその決断は多くのファンを生み、結果として価格転嫁せずともビジネスとして成立させることができました。
「原因を変えれば、時間はかかっても結果は必ず変わります。私たちが買うものを選び、企業に声を届けることで、世界は確実に変わっていくのです」
最後に鬼丸氏は、テラ・ルネッサンスが支援した元子ども兵の青年のエピソードを語りました。溶接の技術を身につけ、仕事を得た彼は、再び武装勢力から勧誘された際にこう言って断ったそうです。

「俺は今、自分の技術で人の役に立っている。誰が好き好んで人を殺しに行くか」
働くことは、単にお金を稼ぐだけでなく、自分の尊厳を取り戻し、平和を築く力になる。
「だからこそ、企業の皆さんが行う『責任ある鉱物調達』や社会貢献活動は、決して『おまけ』ではありません。事業の本丸であり、働くことの意義そのものなのです」
鬼丸氏の熱いメッセージに、会場は静かな感動に包まれました。


第2部|トークセッション
佐賀の企業の「今」
続く第2部では、当プラザ職員の坂井亨より、佐賀市内の機械金属関連企業(主にBtoB企業)23社を対象に行った聞き取り調査の結果が報告されました。

坂井は前職で県の外郭団体にて中小企業の生産性向上支援に携わっていた経験から、当初は企業の「地域貢献活動(お祭りへの参加や清掃活動など)」についてヒアリングを行っていました。ところが、経営者との対話の中で「コンフリクト・ミネラルズ(紛争鉱物)」という聞き慣れない言葉が度々登場することに気づきます。
坂井は、現場の声から見えてきた現状を以下の4つの視点で報告しました。
1. 取引上の「必須事項」としての認識
多くの製造業にとって、紛争鉱物の調査回答は「取引を継続するための必須条件」となっています。大手メーカーや海外展開する企業と取引がある場合、CMRT(紛争鉱物調査レポート)等の提出は避けて通れません。環境規制と同様に、サプライチェーンの責任として高度な要求が課されています。
2. 調査の実務的な負担と限界
現場からは「やらされ感」や「非常に面倒だ」という本音も聞かれました。自社で鉱山を確認できるわけではなく、商社等からの情報を信頼して転記するしかない情報の不透明さや、特殊なソフトやExcelでのデータ変換など、煩雑な事務作業が中小企業の大きな負担となっています。また、特殊な鋼材を使用していないため「該当なし」と判断して済ませているケースもありました。
3. 社会的背景への理解と関心の乖離
レポート提出は行っていても、物理的に遠いアフリカ・コンゴの悲劇を「自分事」として捉える難しさがあります。「児童労働は悪だが、それを排除することで現地の貴重な現金収入を奪うことになるのでは?」といった倫理的なジレンマを持つ経営者もいました。一方で、「単なる事務作業ではなく、なぜこのレポートが必要なのか、背景にある子ども兵の問題などを正しく知った上で対応したい」という前向きな学習意欲を持つ方もいらっしゃいました。
4. 企業の社会的責任(CSR)としての位置づけ
一部の企業では、この問題を単なる取引条件ではなく、自社の持続可能性に関わる重要な責任と捉えています。取引先の要求に対し真摯に情報を開示することが信頼性向上につながり、ひいては武装勢力への資金流入を止め、平和構築に寄与する国際的な枠組みへの協力であると認識され始めています。


現場の声と意識の変化
トークセッションでは、聖徳ゼロテック株式会社 代表取締役の古賀忠輔氏と、株式会社太平プレテック 常務取締役の野口慎平氏にご登壇いただきました。コーディネーターは鬼丸氏が務め、製造業の現場から見た「責任ある鉱物調達」について対話が繰り広げられました。


金型製造を行う古賀氏は、「これまでは調査票が来たら回答するだけの『事務作業』という認識でしたが、今日の話を聞いて、自分たちの仕事が平和支援に直結しているのだと痛感しました。この背景を社員や自分の子どもたちにも伝えたい」と、意識の劇的な変化が語られました。
また、自動車部品のプレス加工を行う野口氏は、自動車業界特有の厳格なサプライチェーン管理(4M変更管理など)の中で、素材の変更が容易ではない実情を吐露。「調査を求められる負担感はある」としつつも、「安易にモノを買い替えるのではなく、長く使うことや背景を知ることが大切だと感じた」と述べられました。
鬼丸氏は、両氏の話を受け、「調査票に真摯に向き合う佐賀の企業の皆さんの存在が、世界を少しずつ平和にしている」と称賛。「企業活動における社会貢献は『おまけ』ではなく『本丸』であり、働くことの意義を深めるものだ」と結びました。






参加者の声と学び
講座終了後のアンケートでは、参加者の皆様から熱量の高い感想が多数寄せられました。その一部を抜粋してご紹介します
参加者アンケートからの声(一部抜粋)
- 「私は微力だが、無力ではない」という言葉に救われました。(企業・事業主)
- サプライチェーンに関するお話なのだろうと思っていましたが、想像の遥か上を行く内容でした。普段使っているものを造るための鉱物の産地、そして、それが紛争の引き金になっていることにまで思いが至っていなかった自分が恥ずかしいです。(市民活動団体)
- 企業理念を社員一人一人が理解し、実践することや、社会貢献の意義や意味を深く知ることで、自分の価値観を変えることで、世界が変わる一端となることに気づけた。(市民活動団体)
- 企業の社会貢献の大切さの根源となるお話を聴けたから。(市民活動団体)
- 私たちの「買い物」という行為にとても大切な意味があることを再認識できました。(市民活動団体)
- 「アフリカ・コンゴ」「佐賀のものづくり」というキーワードにひかれて参加しましたが大正解でした。ありがとうございました。(市民活動団体)
- まず第一にこういうセミナーを企画される佐賀市市民活動プラザが素晴らしい!そして、登壇された聖徳ゼロテックの古賀さん、太平プレテックの野口さんにも心から敬意を込めて拍手を送りたいと思います。(市民活動団体)
- 素晴らしい活動だなぁと思いました。熱量も高いし。私も、自分の活動をしっかり見つめていきます。大変有意義な時間でした。(市民活動団体)


アーカイブ視聴を希望される方へ
当日の講座に参加できなかった方や、もう一度内容を振り返りたい方のために、アーカイブ動画の視聴申し込みを受け付けております。
以下のフォームよりお申し込みください。視聴用URLをお送りいたします。


結びに
今回の講座は、遠い国の社会課題が、実は私たちの地域の営みや経済活動と地続きであることを改めて認識する機会となりました。
「知ること」が解決への第一歩です。
佐賀市市民活動プラザでは、今後も市民活動やNPO、そして企業の皆様と共に、地域と世界をつなぐ視点を持ち、持続可能な社会の実現に向けた学びの場を提供してまいります。
ご登壇いただいた鬼丸様、古賀様、野口様、そしてご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
お問い合わせ先
佐賀市市民活動プラザ事業部
- 〒840-0826 佐賀市白山二丁目1-12 佐賀商工ビル7階
- TEL:0952-40-2002
- FAX:0952-40-2011
- E-mail:plaza@tsunasaga.jp
- Facebook:https://fb.com/tsunasaga.plaza/
- Instagram:https://www.instagram.com/tsunasaga.plaza/










