2025年2月28日(金)、佐賀市市民活動プラザ事業部では、人材育成講座「地域自治と縮充のまちづくり〜支援者としてどう携わるか~」を開催しました。
この講座では、播磨町まちづくりアドバイザーおよび佐用町縮充戦略アドバイザーを務める佐伯亮太氏を講師にお招きし、人口減少時代における新たな地域開発アプローチ「縮充のまちづくり」の概念と、その実践事例についてお話いただきました。
参加者は、従来の数値中心の評価を超え、「つながり」や「充実度」を重視する視点に深く共感し、質疑応答では、実践的なアドバイスも飛び交いました。
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開催概要
本講座は、佐賀市市民活動プラザ主催する社会課題別講座(今を知る)として、オンラインZoomを併用したハイブリッド開催とし、全体で35名(リアル14名、オンライン21名)が参加しました。
詳しい開催概要は、以下のリンクからご覧いただけます。
講師プロフィール

佐伯 亮太 さん(合同会社Roof 共同代表)
都市計画を専門とし、博士(工学)の学位を持つ。播磨町まちづくりアドバイザーおよび佐用町縮充戦略アドバイザーを兼務し、週3日、播磨町役場、週1日、佐用町役場で勤務しながら、複数の会社経営も手掛け、地域と行政の橋渡し役として多角的な視点から地域振興に貢献されています。
「がんばらないけど、あきらめない」を心情に、多様な地域で様々なプロジェクトを立ち上げ、地域の人々が自主的に活動を始められるような支援を重視。 元々クラブDJとして活動されていたという異色の経歴の持ち主でもあり、その経験も活かしながら、地域社会に関わっておられます。
佐伯さんは、以下の3つの視点を中心に講座を進められました。
- 縮充のまちづくり:人口減少を前提とした地域開発の新たなアプローチ
- 住民主体の地域活動と協働の推進:住民が主役となる地域活動の重要性
- 具体的な活動事例と成功の要因:参加者が実践に活かせるノウハウの共有
これらの視点から、佐伯さんは、地域資源の活用、住民の主体的な参加、そして具体的な成功事例を通して、参加者が地域社会の新たな可能性を発見し、それぞれの地域で実践していくためのヒントを提供されました。
セミナーの特徴と学びのポイント
この講座の最大の特徴は、従来の「増やす」まちづくりから一歩踏み出し、人口減少時代における「縮充」という視点から地域を再評価する点にあります。講座全体を通して、以下の点が重要な学びのポイントとなりました。
1. 縮充のまちづくりの概念とその実践

本講座では、人口減少時代における地域開発の新しいアプローチとして、「縮充(しゅくじゅう)」という考え方が提唱されました。これは、単に規模を縮小するのではなく、規模が小さくなるからこそ可能になる新しい価値を創造することを目指すものです。
佐伯さんは、特に佐用町を例にとり、過去60年間で世帯数はあまり変化していないものの、1世帯あたりの人数が4〜5人から2.8人に減少しているという現実を示しました。この変化に対応するために、佐用町では、子ども全員が図書館長を経験するなど、現状の資源を最大限に活用する具体的な対策が進められています。
2. 住民主体の地域活動と協働の推進

講座では、従来の「課題解決型」アプローチではなく、「やりたいことから始める」アプローチの重要性が強調されました。地域住民が自らアイデアを出し、主体的に行動することで、より持続可能で活力ある地域活動が生まれると指摘。
特に、若い世代の参加を促進するための取り組みとして、高校生から50歳以下を対象とした「さようミライカイギ」などの具体的な例が紹介されました。これらの取り組みを通じて、若い世代が行政に依存せず、自律的な地域活動を育成することの重要性が示されました。
さらに、まちづくり協議会の役割を見直し、行政の下請け的な存在から、住民主体の活動の場へと転換する必要性が指摘されました。行政の縦割り構造を打破し、住民との柔軟な連携を構築していく必要性が指摘されました。
3. 具体的な活動事例と成功の要因
講座では、以下の具体的な活動事例とその成功要因が紹介されました。
高齢者向けスマホ教室と地域交流
高齢者向けのスマホ教室では、高校生を中心とした70名のスマホサポーターが毎月定期的に講座を開催。単なる技術支援だけでなく、同世代や近い世代による教室運営により、高齢者の社会参加と健康予防に貢献。特に男性の社会参加のきっかけとなり、実質的にはサロン的な機能も果たしている点が特徴的です。

河川清掃と生き物観察会の組み合わせ
地域の河川清掃に生き物観察会を組み合わせることで、従来の強制的な清掃活動を楽しいイベントに転換。親子連れが自然と参加したくなる仕組みを作り、地域住民の主体的な参加を促進。活動の楽しさを重視し、義務感ではなく自発的な参加を引き出す工夫が成功の要因とのことです。
地域内移動支援とデイサービス
過疎地域において、まちづくり協議会が自主的にバス運行を行い、さらに地域の公民館でデイサービスを実施。施設への移動ではなく、地域内での交流を重視した介護予防の取り組みを展開。地域の実情に合わせた柔軟な活動運営が特徴的です。


4. 質疑応答から得られた実践的アドバイス
質疑応答では、参加者から多くの実践的な質問が寄せられ、佐伯さんから具体的なアドバイスがありました。

人が集まらない場合の工夫
防災キャンプの事例では、子どもたちが小学校に宿泊しながら段ボールベッドを作り、火を使って料理を体験するなど、遊びと学びを融合させた活動が提案されました。また、70代前後の方々による草刈りチームを結成し、フラワーロードの管理などを「小さな仕事」として取り組む方法も紹介され、地域活動への参加のハードルを下げる工夫が明かされました。
行政トップダウンの課題と対応
佐用町の事例では、週1回の関わりという限定的な関係性もあり、大きな反発は見られないとのことです。特に、まちづくり協議会の見直しを丁寧に行い、地域の皆さんが自分たちでやるという意識が培われてきたことが大きな要因です。また、世代別・性別での意見交換会を実施することで、多様な意見を取り入れる工夫をしています。特に30代や40代の女性だけの意見交換会など、同じ属性の人々が集まることで、より率直な意見交換ができるようになっています。
継続が難しいイベントへのアプローチ
佐伯さんは、そもそもなぜ辞められないのかという理由を考えることが重要だと指摘しました。例として商店街のクリスマス装飾を挙げ、お金があるから続けているだけの活動について、当たり前を疑い、一つ一つ点検していく必要性を説明しました。
新規メンバーの獲得戦略
佐伯さんは、組織の運営に関わるコアメンバーは少人数でも構わないと指摘しました。重要なのは、関わり方のレベルを「組織全体の運営」、「イベントの企画」、「当日の手伝い」など、様々な段階で用意することです。また、参加者それぞれがどの程度の参加度合いを望んでいるのか、例えば月1回の参加なのか、より深い関わりを望んでいるのかなど、期待値を明確にしておくことが重要だと述べました。


参加者の声と学びの成果
講座後のアンケートでは、参加者の満足度平均は8.33という高い評価を得ることができました。参加者の95.5%が「発見やヒント、心境の変化」を実感し、次のような感想が寄せられました。
- 人口減少に対する新しい見方を学び、今ある資源で何ができるかを考える良いきっかけになった。
- 楽しく、ゆるく活動することで、住民主体の協働が促進されるという考えに共感した。
- 具体的な成功事例と実践的なアドバイスが、今後の活動に直結するヒントとなった。
- 従来の数値評価ではなく、住民同士のつながりや充実度を重視する視点が非常に参考になった。
- 少ない人数でいいということ。
- 年齢別のイベント?会の開催が効果的。
- 「無関心の方には無理はせず、興味のある方にお声をかけていく」に納得しました。(^^)/
- 今あるもので、やれることを考える。また、組み合わせや協力者など工夫次第ではいろいろ実践できることがあるのではないかと思います。
- 視点が変わった。できる人を探していたがそうではないことに気づいた。
これらの参加者の声から、本講座が参加者にとって、地域づくりの新たな視点や具体的な活動のヒントを提供する有意義な機会となったことがわかります。特に、人口減少という避けられない現実の中で、地域資源を活かし、住民が主体的に関わることで、より持続可能で豊かな地域社会を築いていくための具体的な道筋を示した点が、参加者から高く評価されたと考えられます。


アーカイブ視聴を希望される方へ
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まとめと今後の展開

今回の講座は、従来の増加志向を超え、縮む中で充実する地域づくりという、新たな視点を提示するものとなりました。
- 評価基準の転換:今後は、従来の「数」や「規模」に偏らず、住民のつながりや充実度、満足度といった質的な側面に基づいた、新たな評価基準を確立していく必要があります。
- 住民主体の協働:行政の縦割り体制を打破し、住民が自らアイデアを出し、柔軟に連携して活動できる体制づくりが重要となります。
- 実践から生まれる知見:講座で紹介された具体的な事例や、質疑応答で得られた実践的なアドバイスは、今後の地域活動を推進する上で非常に貴重なヒントとなります。
今後は、この講座で得られた知見を佐賀市をはじめとする各地域に広げ、「縮充」の視点から地域社会が自立し、発展していくための連携や新たな取り組みをさらに推進していく予定です。
お問い合わせ先
佐賀市市民活動プラザ事業部
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