佐賀市市民活動プラザ事業部では、「活動の意義は大きいけれど、資金や人材がなかなか集まらない…」といったNPOや市民活動団体の悩みに応えるため、組織運営の基盤を強化し、共感と資金が集まる持続可能な組織へと成長するための全3回の基盤強化連続セミナーを実施しました。
講師には、リタワークス株式会社代表取締役の中川雄太さんをお迎えし、組織のミッション明確化から資金調達と広報戦略、クラウドファンディングの活用までを3つのステップで学ぶ連続セミナーです。
本レポートでは、その第1回として2025年8月1日(金)に開催した「私たちの使命と未来図~応援の輪が広がるビジョン・ミッション~」の模様をお届けします。


第1回 開催概要
私たちの使命と未来図~応援の輪が広がるビジョン・ミッション~
- 日時:2025年8月1日(金)19:00~21:00
- 場所:佐賀市市民活動プラザ 4階 大会議室401/オンラインZoom
活動において応援の輪を広げるために不可欠な「ビジョン・ミッション」の策定と活用について学びました。会場参加4名、オンライン参加6名、計10名の参加者は、終始熱心に耳を傾け、活発な質疑応答も交わされました。
基盤強化連続セミナー ダイジェスト動画
本セミナーのポイントをGoogleのAIツール「NotebookLM」で要約し、デザインツール「Canva」でアニメーション動画にまとめました。
約8分で全3回の内容をダイジェストでご覧いただけます。セミナーに参加できなかった方も、内容をもう一度振り返りたい方も、ぜひこちらからご覧ください。
講師プロフィール

中川 雄太さん(なかがわ ゆうた)
大阪府泉大津市出身。京都産業大学卒業後、2016年に事務用品商社に新卒入社。東日本大震災をきっかけにソーシャルビジネスに関心を持ち、企業の理念浸透や働き方改革に携わる。2020年にリタワークスに入社し、2022年から代表取締役に就任。
NPOおよび病院分野に特化したサービスを提供し、ウェブサイト制作を通じて社会課題解決に取り組む。「利他の想いと行動で、世界をより良くする」を経営理念に掲げ、「あらゆるソーシャルビジネスに挑戦し、明日が良くなるを実感できる社会をつくる」をビジョンとして活動している。
セミナーの学びやポイント
共感の輪を広げる「ことば」の重要性

研修の冒頭、中川さんは「NPO = 市民活動」であると定義しました。一般企業が利益を分配し続けることを目的に、給与などの報酬で組織が成り立つ一方、NPOは社会をより良くすることを目的に、「共感」という感情的な結びつきによって人々が参画する組織であると、その違いを明確にしました。
だからこそ、新たな支援者や関係者という「市民」を巻き込んでいくためには、「伝える」のではなく「伝わる」ことばが不可欠だと強調します。
- 伝える:【話し手主体】私があなたにわかってほしい
- 伝わる:【受け手主体】あなたに分かる言葉で私が話す
この「伝わる」ことばで紡がれたビジョン・ミッションが明確であることで、組織の活動に一貫性が生まれ、支援者からの信頼を獲得し、持続可能な組織運営へとつながっていくのです。
揺るがない理念体系が、組織を成長させる「根」になる

「理念はつくって50%、浸透して80%。浸透し続けることが最も重要」と中川さん。一度つくって終わりではなく、組織の成長段階や社会の変化に合わせて見直し、浸透させ続けることが求められます。
研修では、理念体系を一本の木に例え、その重要性が語られました。
- 理念(根):組織の根幹となる揺るがない想い。
- ビジョン(幹):組織が目指す未来像。
- ミッション(枝):ビジョンを実現するための具体的な使命。
この理念体系という「根」がしっかりと張られているからこそ、組織は栄養(人材や資金)を吸収し、事業という枝葉を伸ばし、成長することができます。
人の心を動かす「伝わる」ビジョン・ミッションの3つのポイント

では、どうすれば「伝わる」ビジョン・ミッションをつくれるのでしょうか。中川さんは、数々のNPOに伴走支援してきた経験から、3つの具体的なポイントを挙げました。
- ひと目で心に残る「文字数」:短いほど覚えやすく、共有しやすくなります。目安は30文字程度。キャッチーな言葉は、人の記憶に残り、口コミで広がりやすくなります。
- 口ずさみたくなる「語感・言葉」:リズミカルで、思わず口に出したくなるような言葉を選びます。「~をなくす」といったネガティブな表現は避け、「できる」「なる」「挑む」といったポジティブな言葉を用いることで、前向きな印象を与え、共感を呼び起こします。
- イメージできる「具体性」:ビジョンが実現した社会を想像した時に、「誰がどう変わるのか」が鮮明に描けるかが重要です。「誰もが」「全ての子どもが」のように主語を明確にすることで、メッセージの焦点が定まり、より多くの人に自分ごととして捉えてもらいやすくなります。
事例紹介|共感を呼ぶビジョン・ミッションの実例

研修では、人の心を動かす「伝わる」ビジョン・ミッションのポイントを体現した、先進的なNPOの事例が紹介されました。自団体の「ことば」を考える上でのヒントが数多く見つかります。
- ビジョン:こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる。
- ミッション
- こども⾷堂が全国のどこにでもあり、みんなが安⼼して⾏ける場所となるよう環境を整えます。
- こども⾷堂を通じて、多くの⼈たちが未来をつくる社会活動に参加できるようにします。
- 解説:単なる「食支援」に留まらず、こども食堂が持つコミュニティのセーフティネットとしての役割や、地域の関係性強化といった多面的な価値を「誰も取りこぼさない」という普遍的で力強い言葉で表現しています。
- ビジョン:社会課題が解決され続ける世界
- ミッション
- 社会課題を⾃分事化する⼈を増やす
- 課題の現場に資源をおくり、ともに解決策をつくる
- 解説:シンプルで覚えやすく、国内外の社会課題に挑む団体の姿勢が明確に伝わります。「自分事ごと化」というキーワードで、活動の核心を的確に表現しています。

- ビジョン:今を生きるわたしたちとまだ見ぬこどもたちが希望と手をつないで歩める社会。さあ、心躍る未来へ。
- ミッション:事業をつくり、仕組みを変え、文化をうみだし、ともに『新しいあたりまえ』を未来に手渡そう。
- 解説:「心躍る未来へ」というエモーショナルなビジョンを掲げ、それを実現するための行動指針として「新しいあたりまえを未来に手渡す」というミッションを定義。社会課題の解決を未来志向で前向きなメッセージとして発信し、団体の持つチェンジメーカーとしての気概が感じられます。
- ビジョン:すべての⼦どもが笑顔にあふれ、⾃分らしく輝く社会へ
- ミッション:志を共にする仲間とつながり、子どもたちの生きる力を支援する
- 解説:活動の対象である社会的養護下の子どもたちを「すべての子ども」という言葉で表現し、誰一人取り残さないという意志を示しています。「志を共にする仲間」という言葉には、資生堂だけでなく、他企業など多様な主体と連携して支援を行う財団の姿勢が表れており、子どもたちの自立に必要な「生きる力」を多角的に支えるという使命が明確です。


自団体の「ことば」を見つけるワークショップ
講義の後半では、参加者が自団体のビジョン・ミッションを言語化するためのワークシートが紹介されました。
- 創設のきっかけ(立ち上げた理由)や苦労、直面した出来事は?
- 私たちがなんとかしたいと思う世の中の問題(課題)は何か?
- 取り組む問題のなかで、どんな人の助けになるか?
- 取り組む事業は何か?(今後取り組みたいことも含めて)
- 大事にしたい考え方や行動、活動への想いは?
これらの問いにじっくりと向き合うことで、団体の根源的な思いや社会における独自の価値が明らかになります。さらに、客観的な視点を取り入れるツールとして、SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)も紹介され、多角的に自団体を見つめ直す手法が共有されました。
質疑応答|参加者からの質問
講義中から終了後にかけて、参加者から多くの質問が寄せられました。その一部をご紹介します。
Q(問いかけ): ビジョンやミッションで「誰がどう変わるのか」を考える際、「誰」とは受益者のことでしょうか?それともスタッフやボランティアのことでしょうか?
A(中川さん):どちらも含まれるのが理想です。特にビジョンは、受益者だけでなく、活動に関わることで成長するボランティアなど、より広い人々を対象に設定して問題ありません。一方、ミッション(使命)は、より具体的に、主たる受益者に絞って表現する方が活動の軸がぶれにくくなります。

Q(問いかけ):団体の根幹である「理念」と「ビジョン・ミッション」はどのように関連し合っていますか?また、社会変化が速い中で、理念が形骸化し、活動実態と乖離してしまうことを防ぐにはどうすれば良いでしょうか?
A(中川さん):理念は組織の内向きな哲学であり、自分たちが大切にする「あり方」そのものです。必ずしも外部に分かりやすく伝える必要はありません。それに対し、ビジョン・ミッションは、その理念を外部に「伝わる」ことばで表現するためのツールと捉えると良いでしょう。理念の形骸化を防ぐためには、定期的な見直しが不可欠です。社会の変化が激しい現代では、少なくとも半年に一度は「今のままで本当に正しいか」を問い直すことをお勧めします。特に組織が停滞していると感じる時こそ、原点に立ち返り、理念体系を再調整する絶好の機会です。
Q(問いかけ):団体には「子どもに夢を たくましく豊かな創造性を 未来を切り拓く知恵と勇気を」という50年間変わらない理念があります。この理念を基に、今の時代に合わせてビジョン・ミッションを内部で話し合っていく、という理解で合っていますか?
A(中川さん):まさにおっしゃる通りです。50年続く理念があることはたいへん素晴らしいことです。その理念の背景を深く掘り下げた上で、「今の時代の子どもたちにとっての『夢』や『創造性』とは何か」を考え、現代の言葉でビジョン・ミッションを再構築していくことが、活動をさらに発展させる鍵となります。
参加者の声と学びの成果
アンケートでは、理解度8.56、満足度9.11(11段階評価)と非常に高い評価をいただき、以下のような感想が寄せられました。
- 自団体のビジョン・ミッションの言語化がうまくいっていないと感じていた。ボランティアを含む「人の巻き込み」がうまくいかない原因の分析まではできていたが、「ことば」を獲得するために具体的に何をしたらいいのか分からず困っていた。本日の研修で、すごくすっきりしました。早速時間をつくってやってみたい。
- ビジョンとミッションを再確認し、言語化に役立てたい。もう一度考えるチャンスをもらった。
- 受け手主体を考えて伝える、という点が心に残った。
- 理解しやすい体系的な内容だった。理事会と共有したい。


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まとめ:自団体の「ことば」を磨き、応援の輪を広げよう
今回の研修は、多くの参加者にとって、自団体の存在意義を再確認し、応援の輪を広げるための「ことば」を見つめ直す、貴重な機会となったようです。
研修で紹介されたワークシートやフレームワークを活用し、ぜひ皆様の団体でも「伝わる」ビジョン・ミッションについて話し合ってみてはいかがでしょうか。
佐賀市市民活動プラザでは、今後も市民活動団体の組織力強化につながる研修を企画してまいります。
お問い合わせ先
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