ジュースが苦手なはずの妻が「ジュースの飲み比べ体験がしたい」と言い出した。
「したい」と言いながら決定事項なのはいつものこと。その時点で既に予約は完了していて、週末、妻の強い要望で愛車としたトヨタ・プリウスPHV 1.8Aプレミアムにその妻を乗せ、一路、太良町の田島柑橘園を目指すことに。
柑橘の丘を縫い、谷に架かる橋から有明海が望める多良岳オレンジ海道。脇目を振ることができなくても気持ちのよい道を走り抜けながら、どうも釈然としなくて「ジュース、好きじゃあないでしょう」と助手席の妻に訊ねたが、「それがさ、違うと」だったのでそれ以上は諦めた。返ってくるのは十中八九「飲めばわかる」だ。
ナビに従い、谷の一つを下りていく。柑橘畑の果て、大きな倉庫のような建物が体験会場だった。
高い天井に至る壁。そこに貼られた異国情緒あふれる柑橘の写真やポスターに気を取られつつ、人の好さそうなご主人に導かれてたどり着いた先には、長机に並ぶ瓶やパウチパックに入った暖色系のジュースたち。
私自身ジュースは好きでも苦手でもない。パウチから注がれたジュースが入ったプラカップを、ご主人から「飲む順番があるのですよ」と差し出されるまま受け取って飲む――うまい。
顔に出ていたのか、隣で妻が「おいしいでしょう!」と声を上げ、素直にうなずく。
皮や筋をていねいに取り除いた上で、果肉だけを絞ったような、えぐみや雑味と無縁な味。
聞けば、搾る際、摩擦や熱が果汁に伝わらず、また果汁が外皮にも触れない構造のスペイン発のジューサーを使っているとのこと。さらにパウチのジュースに至っては、鮮度や風味を損わないプロトン凍結機というもので冷凍しているそうだ。
納得しつつ次に差し出されたジュースを飲み、目を見張る。味が違う。品種が違うからという尤もな回答だったが、こうも違うものなのか。
特にクレメンティンというスペイン原産のオレンジのジュースといったら、うまいという以外の語彙がない自分を恥じるほどにうまい。何だこれは、これがスペインか。
一生に一度くらいは行ってみたい気分になった。
古賀 隆(こが たかし)
1957年(昭和32年)佐賀県生まれ。民間企業を定年後、帰郷。
趣味は地域探索、そして、ちょっと良いもの探し。