数日前の朝食で「あれ? みそ汁、美味しいね」と言ったら今日、ダイニングテーブルの上のプラスチックの桶のようなものと大豆? の他、袋に入った何かを前に、得意げに笑む妻がいた。
「これは?」と問うなり差し出されたのは、みそ作りの説明書。
美味しかったみそ汁のみそは、ご近所さんの手作りのおすそ分けだったらしい。
丸秀醤油の「自宅で作る みそ作りセット 2kg」。
「あなたが美味しいって言ったから教えてもらって取り寄せたの」と殊勝なことを言ってくれたが、嵌められた気がしたのはどうしてか。
ただ、「簡単だから手伝って」と妻が言ったのは本当だった。
予め蒸されて冷凍された大豆は電子レンジで解凍して温めればよく、それから厚手のビニル袋に移し入れた大豆を粒が残らないように押しつぶしていくのも、塩と混ぜ合わせた米麹をつぶした大豆を合わせてこねるのも、骨が折れるというほどではなかった。
できあがりで2kgという量がいいのか、それとも最初から大豆が蒸されていたのがよかったのか。こねあげたものを丸めてプラスチックの桶に詰め、空気を抜きながら押さえて均してを三度ほど繰り返し、表面に腐敗防止の塩を振り、ラップをして完成。
あとは直射日光の当たらない、かつ涼しいところに置いて3ヶ月ほど待つ、と。
「先は長い」と、最初の大豆のレンチン以外は隣で応援しかしていなかったような気のする妻が、ひどく残念そうに眉尻を下げた。
「3ヶ月なんてすぐだよ。たのしみだね」と慰めて、あの美味しいみそ汁が毎日食べられるなら、と思い描く。
これだけ楽ならもう一つくらい取り寄せるか。
古賀 隆(こが たかし)
1957年(昭和32年)佐賀県生まれ。民間企業を定年後、帰郷。
趣味は地域探索、そして、ちょっと良いもの探し。